目次
1 はじめに
4 まとめ
1 はじめに
前回は、認知症などで判断能力が低下した場合に備えて、信頼できる方に自分の財産や身の回りのことをお願いする制度として「任意後見契約」についてご紹介させていただきました。
しかし、任意後見契約はあくまで判断能力が低下した後に効力が発生する制度です。それ以前の財産の管理や死後の遺産の分配までをカバーするには限界があります。
そこで今回は、任意後見契約とあわせて活用することが考えられる「民事信託」や「遺言」の制度について、制度の仕組みや併用のメリットをご紹介いたします。
老後の安心であったり、円滑な相続を実現するためのヒントになれば幸いです。
2 任意後見契約の役割と限界
前回もご説明したとおりですが、任意後見契約は、公正証書によって、将来判断能力が低下した場合に備えて、財産管理や身上監護の代理権を信頼できる人(受任者)に任せる契約です。
家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で効力が発生します。任意後見契約の主な特徴は以下のとおりです。
- 本人が元気なうちに受任者を選ぶことができる。
- 代理権の範囲を自由に設計できる。
- 任意後見監督人によるチェック機能がある。
しかしながら、任意後見契約には以下のような限界も存在します。
- 効力の発生は、あくまで判断能力が低下した後に限定される。
- 自宅の売却や資産の移転には限界がある。
- 死後の遺産の処理(相続)は対象外である。
- 任意後見監督人の選任費用や報酬が発生する。
つまり、任意後見契約だけでは不十分な場合が多くあるのです。
3 制度(民事信託や遺言書)を組み合わせるという発想
判断能力があるうちから老後・相続までの将来を安心して託すためには、任意後見契約と他の制度(民事信託や遺言書)を適切に組み合わせることが考えられます。
特に以下の制度(民事信託、遺言書)は、任意後見契約と相互補完的に活用することで、大きな効果を発揮します。
(1)民事信託~柔軟な財産管理と承継の実現
民事信託とは、財産を託す人(委託者)が、信頼できる家族など(受託者)に財産の管理や処分を託す契約です。
なお、託された財産から給付を受ける権利を有する者を「受益者」といいます。また、受託者を監督する者(弁護士等)を「信託監督人」といいます。
民事信託の主なメリットは次のとおりです。
- 判断能力があるうちから財産管理を開始できる。
- 不動産の賃貸や預金の管理などが可能になる。
- 信託契約で受益者を柔軟に指定できる。
任意後見契約が判断能力が低下した後の備えであるのに対し、民事信託は元気なうちからの財産管理等が可能という点で補完関係にあります。
(2)遺言書~死後の財産分配の実現
任意後見契約では、本人の死後の財産分配については何らの効力もありません。死後の意思(死後の財産分配)を実現するためには、遺言書を作成することが考えられます。
特に以下のようなケースでは、遺言の作成をお勧めします。
- 特定の子や親族に多めに遺産を承継したい(ただし、遺留分に配慮する必要あり)。
- 相続人以外(内縁の配偶者など)にも遺産を承継したい。
- 特定の財産(株式等)の行先を明確にしておきたい(事業承継などの場合)。
公正証書遺言であれば、家庭裁判所の検認手続も不要であり、実務上もスムーズに相続手続を進められる場合が多いです。
4 まとめ
任意後見契約は、老後の安心を支える柱の一つです。しかし、それだけでは不十分な場合が多く、民事信託や遺言書といった制度との併用をお勧めいたします。
各制度は互いに補完し合うものであり、トータルな設計によって初めて、本人の意思に基づいた望む老後と円滑な相続が実現できるものと考えます。
当事務所では、民事信託・任意後見・遺言書をどのように組み合わせて活用するかについて設計・支援をすることが可能です。家庭裁判所での後見監督業務の実務経験も踏まえて、ご相談者様のご実情に応じた、最適な制度設計をご提案します。
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