お知らせ

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相続を承認したものとみなされる相続財産の「処分」とは?

目次

1 はじめに

2 「処分」と「保存行為」の違い(判断の枠組み)

3 具体的な事例

4 おわりに

1 はじめに

 最近、相続放棄の法律相談の際、「亡くなった親の預金を引き出してしまった」、「遺品を相続人間で分けた」、「亡くなった親の建物の解体を考えている」などというお話をうかがうことが増えている印象です。

 今回は、相続放棄を考えているにもかかわらず、被相続人(亡くなった方)の預金の引出し、遺品の配分、建物の解体等を行うことの問題点について解説させていただきます。

2 「処分」と「保存行為」の違い(判断の枠組み)

 民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を「処分」したときに法定単純承認(無限に被相続人の権利義務を承継)が成立する旨を定めています。つまり、相続放棄をしようとしている段階で相続財産を「処分」すると「相続放棄できない」とみなされるリスクがあります

 ただし相続財産の「処分」に当たらない保存行為」(財産の現状を維持するために必要な行為)は例外であり、「保存行為」であれば法定単純承認が成立せず「相続放棄できない」とはみなされません。

 「処分」か「保存行為」の判断にあたっては以下の点が重視されます。

  1. 行為の動機・目的(被相続人の財産の保全が目的か、自己の取得のためか)

  2. 行為の金額の規模・社会通念(社会的に見て著しく高額か)

  3. 行為の事後処理(不足分を自己負担しているか、行為後の説明責任の有無)

  4. 相続人が相続開始を知っていたか(知らずにした行為は処分と評価されないことがある)。

3 具体的な事例

(1)被相続人名義の預金を引き出して支出したケース

 相続開始後、被相続人の通帳から預金を引き出して支出した場合、引出した資金の用途が「葬儀費・緊急の弁済・被相続人の看取りに要した費用」など、被相続人の財産の維持・償還に資する合理的支出であれば、「保存行為」として処分に当たらないと評価されることがあります。逆に、引出して自己の生活費や第三者への贈与に使った場合は「処分」と判断されやすいです。

 被相続人名義の預金を解約して墓石等を購入した事案で、社会通念上不相当に高額でなく、不足分を自己負担している事情等があるとして「処分」に当たらないと判断された裁判例があります(もっとも、事案により逆の結論もあり得ます)。

 被相続人の口座に手をつける前に、弁護士に相談して用途の適法性を確認したり、やむを得ず出金する場合は領収書等で用途の記録を残し、後で説明できるようにしておくことが望ましいです。

(2)遺品の「形見分け」や小物の配分(使ってしまう・贈与する)

 被相続人の着物や日用品、装飾品等を相続人間で配った場合、日常的・社会通念上相当な範囲の形見分け(小物類・普通の遺品分配)として必ずしも「処分」とみなされないことが多いです。ただし、価値のある資産(高額の美術品・高価な家具・金銭)を無償で第三者に譲渡したり、自分のものとして明確に処分した場合は「処分」に該当する可能性が高くなります

 裁判例は一律ではなく、形見分けであっても高額であったり、明らかに相続財産性が強いものを取り扱った場合には、「処分」と評価されることがあるため、どこまでが「常識的な形見分け」かが争点になります。

 形見分けをする際は、特に高価な品については一旦保留にして、相続人全員で協議するか、弁護士を介入させたり、記録(写真・分配一覧)を残すことが望ましいです。

(3)建物の修繕・解体・処分

 被相続人が所有していた空き家について、老朽化した屋根の応急修理を行った場合に関しては、応急的・必要最小限の修繕(雨漏りを止める、倒壊を防ぐための補修等)であれば「保存行為」と評価される可能性が高いです。一方、大規模なリフォーム・取り壊しを行った場合に関しては、財産の形質を変える大規模改造や、建物を取り壊して資材を売却する等は「処分」に該当する可能性が高いと考えられます。目的が「財産保全」か「自己の利益取得」かが焦点になります。

 裁判例では事案ごとに判断が分かれており、大がかりな行為は「処分」と判断されやすい傾向にあります。

 緊急の保存行為でない限り、大規模な工事・解体の場合は、あらかじめ弁護士と相談をしたり、修繕の場合は、見積書・作業記録・領収書を保管し、保存目的を説明できるようにしておくことが望ましいです。

4 おわりに

 具体的な事例を通じて、「処分」と「保存行為」の違いを説明させていただきました。

 おさらいすると、「処分」・「保存行為」とは次のとおりです。

  • 「処分」:相続財産の性質や価値を変え、事実上または法律上において財産の処分を招く行為(例:預金を引き出して第三者に贈与する、建物を解体・売却する等)。単純承認したものとみなされ、被相続人の一切の権利義務(被相続人の一身に専属したものを除く)を、全面的かつ無条件に承継することになる。

  • 「保存行為」:財産の現状を維持・保全するために必要な行為(例:建物の緊急修繕、台風で屋根が壊れたので応急修理をする等)。単純承認したものとはみなされない。

 相続放棄を検討している段階では、可能な限り「何もしない」か、どうしても必要な「保存行為」に限定することが望ましいです(保存行為として認められるためには行為の必要性・合理性・金額の相当性等が重要であり、後で説明できる証拠を残しておくことが重要です)。また、出金・贈与・高額な形見分け・解体等の重大な行為は避けることが望ましいです。

 やむを得ず支出・処分する場合は、理由・用途を書面(領収書・用途説明書等)で残し、 後に保存行為として説明できるようにしておくと良いでしょう。

 相続放棄を検討されている場合は、一度、弁護士に相談することをお勧めいたします

 早期の法律相談により、単純承認のリスクを回避することが可能になります。

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