目次
1 はじめに
2 全体像について
1 はじめに
離婚したいとお考えになっている方は少なくありません。
当事務所が所在する宮城県の「令和3年人口動態統計(確定数)の概況」によりますと、令和3年の婚姻件数が8,595組である一方、同年の離婚件数は3,228組となっております。
実際に離婚することを考えた場合、様々なことを検討する必要があります。
ところが、育児・家事・お仕事などに時間を割かれ、また、将来に対するご不安や相手方(配偶者)に対する憤りの感情などで、落ち着いて離婚に関して検討することができない方も少なくないと思われます。
大変な状況の中、少しでも落ち着いて検討していただくために、離婚を考えたときに押さえるべきポイントについて、以下のとおり、ご説明いたします。
2 全体像について
まずは全体像についてご説明いたします。
離婚を考えたときに検討することになる内容は、大きく3つあります。
一つ目は、①相手方(配偶者)が離婚に応じてくれるかどうかです。
二つ目は、お子様に関することです。
三つ目は、お金に関することです。
二つ目は、さらに、②お子様の親権者を父母のどちらにするか、③養育費の請求をどうするか、④面会交流の方法をどうするかに分けることができます。
三つ目は、さらに、⑤財産分与をどうするか、⑥慰謝料の請求をどうするか、 ⑦年金分割をどうするか、⑧婚姻費用の分担をどうするかに分けることができます。
このように、離婚を考えたときに押さえるべきポイントは、上記①から⑧までの8つになります。
3 それぞれのポイントについて
次にそれぞれのポイントについてご説明いたします。
夫婦双方に離婚をする意思の一致がなければ、話し合いにより離婚をすることはできなくなります。
この場合、最終的には、裁判(訴訟)によって離婚を認めてもらう必要があります。
法律上、離婚原因として定められているものは次のⅰからⅴの5つです。
ⅰ 不貞行為(不倫)
ⅱ 悪意の遺棄(生活の面倒を見なかった等)
ⅲ 3年以上の生死不明
ⅳ 回復の見込みのない強度の精神病
ⅴ 婚姻を継続し難い重大な事由
相手方(配偶者)に不倫や家庭内暴力などが存在する場合には、相手方が離婚を希望しなかったとしても、離婚原因があるとして裁判によって離婚を認めてもらうことが可能となります。
また、相手方(配偶者)との別居開始後、三、四年が経過している場合、「婚姻を継続し難い重大な事由」があるとして、裁判によって離婚を認めてもらえる可能性があります。
親権とは、子を監護、教育するために父母に認められた権利義務のことをいいます。
未成年の子がいる夫婦が離婚する場合には、夫婦の一方を親権者として指定しなければなりません。
親権者の指定について合意ができない場合には、裁判所の手続において、「子の利益」にかなうかどうかを基準にして判断がなされます。
具体的には、親側の事情(これまでの監護状況(監護の継続性)、監護能力、家庭環境、子に対する愛情の度合い、親族の援助の可能性等)とお子様側の事情(年齢、性別、兄弟姉妹関係、心身の発育状況、子の意向、父母及び親族との結びつき等)を総合考慮して判断がなされます。
なお、親権者を指定する際は、一般的に、離婚の有責性(異性関係等)はあまり考慮されません。
養育費とは、未成熟子が社会人として独立自活ができるまでに必要とされる費用です。
養育費の相場については、養育費の「算定表」(平成30年度司法研究「養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究」参照)というものが存在し、基本的には、家庭裁判所もこれを利用しています。
この「算定表」は、裁判所のホームページで確認することができますので、そちらをご覧いただければと思います。
養育費が支払われないという事例も残念ながら多数存在するため、離婚を成立させる前に、公正証書や調停などで合意をしておくことが望ましいです。
公正証書や調停などで養育費の合意をしておけば、万が一支払いがなされない場合、相手方の給料を差し押さえるなどの強制執行の手続が可能になります。
面会交流とは、別居中や離婚後に、子を監護養育していない親が、その子と直接面会したり(直接交流)、面会以外の方法(手紙、メール、電話、オンライン通話等)で交流したり(間接交流)する権利です。
面会交流は、親と離別することになったお子様にとって、どちらの親からも愛されているという安心感を得ることができ、喪失感や不安定な心理状態を回復させることから、お子様の健全な成長に有益なものと考えられています。
お子様の健全な成長を考えれば、離婚を成立させる前に、面会交流についても合意しておくことが望ましいです。
合意ができない場合には、家庭裁判所に面会交流の調停を申し立てることができます。
この場合、お子様の利益を最も優先して話し合いが行われ、お子様の利益に反する事情(連れ去りのおそれ、虐待、お子様の拒絶、DVなど)がないか検討されることになります。
話し合いを進めていく過程で、家庭裁判所において、試行的に面会交流が行われるケースもあります。
財産分与とは、離婚をした夫婦の一方が、他方に対し、財産上の給付を求める制度であり、基本的には、夫婦が婚姻中に築いた夫婦共同財産を清算するものです。
原則として、別居時点の夫婦共同財産(預貯金、現金、生命保険解約返戻金、不動産、株式など)を、半分に分けることになります(2分の1ルール)。
もっとも、住宅ローンが残っている場合など計算が難しいケースもあります。
なお、財産分与は、離婚した時から2年間が経過すると請求ができなくなるためご注意ください。
離婚に伴う慰謝料とは、離婚によって被る精神的苦痛による損害の賠償のことです。
慰謝料が認められる典型的なケースは、相手方(配偶者)の不貞(不倫)や暴力です。これらがあったのかどうか争われた場合に備えて証拠(写真、録音、レシート、クレジットカードの利用明細書、手紙、メール、LINE、SNS、ブログの投稿、避妊具、探偵社等の調査報告書、診断書等)を準備しておくと良いでしょう。
慰謝料の金額は、有責行為(不貞、暴力等)の具体的内容、婚姻期間、未成熟子の有無、当事者の経済状況等の諸事情を総合考慮して算定されるため、必ずしも定まった「相場」があるものではありません(もっとも、実務上は、不貞(不倫)の場合は100万円から200万円程度、それ以外の場合は100万円程度となることが多いです)。
慰謝料の金額について合意ができたとしても、実際に支払ってもらえるかという視点も重要です。将来の強制執行を見据えて、公正証書や調停等で合意をしておくことが望ましいです。
離婚時年金分割とは、離婚した配偶者間において、婚姻期間中の厚生年金の「保険料納付記録」を分割する制度です。
長年婚姻を継続していた方は、この制度の利用もご検討ください。
なお、離婚時の年金分割の請求期限は、離婚後2年以内とされていますので、ご注意ください。
婚姻費用とは、婚姻共同生活を維持するための費用であり、具体的には、衣食住の費用、医療費、娯楽費、交際費、未成熟子の養育費及び教育費等です。
別居後は、婚姻費用を請求することができるため、別居や離婚を検討されている方は、この点も検討するポイントに加えてください。
婚姻費用の相場については、婚姻費用の「算定表」(平成30年度司法研究「養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究」参照)というものが存在し、基本的には、家庭裁判所もこれを利用しています。
この「算定表」は、裁判所のホームページで確認することができますので、そちらをご覧いただければと思います。
婚姻費用は別居してから、離婚が成立するまでの間、請求することができます。
もっとも、家庭裁判所の実務上、調停を申し立てた月から支払義務が発生すると考えられていますので、相手方(配偶者)との間で、婚姻費用の金額等について早期に調整がつきそうもない場合には、できるだけ早期に、婚姻費用分担請求調停の申立てを行うことをお勧めいたします。
4 どのような手続があるか
離婚の手続としては、大きく分けて、ⅰ 協議離婚、ⅱ 調停離婚、ⅲ 裁判離婚が挙げられます。
ⅰ 協議離婚について
協議離婚は、相手方(配偶者)と離婚・親権者について合意した上で、離婚届を役所に提出する方法です。
お互い納得しているのであれば、早く離婚できますし、精神的な負担がないというメリットがあります。
一方、離婚条件について合意ができない場合、話し合いがなかなか進められなかったり、かえって精神的負担が多くなったり、約束した内容(養育費の支払いなど)が守られなかったりするなどのデメリットがあります。
ⅱ 調停離婚について
調停手続は、家庭裁判所において、2名の調停委員(男性1名、女性1名)を介して、相手方(配偶者)と話し合いを行う手続です。
調停委員が夫婦それぞれから個別に話を聞いて話し合いを進めることになり、基本的には、相手方(配偶者)と同席することはありませんから、落ち着いて冷静に話し合いを進めることができます。この点は調停離婚のメリットといえます。
また、裁判離婚と異なり、証拠に基づいて事実の有無を判断する手続ではありませんので、事案に応じた柔軟な解決案を検討できることも、調停離婚のメリットとして挙げられます。
離婚条件が合意できていない場合には、調停離婚の手続がふさわしいといえます。
一方、調停離婚は、相手方(配偶者)の対応次第では、離婚成立までに半年程度時間を要する可能性があったり、相手方(配偶者)が応じない場合には離婚が成立しないというデメリットもあります。
ⅲ 裁判離婚について
裁判(訴訟)手続は、証拠に基づいて事実の有無を裁判所が判断する手続です。調停手続で離婚が成立しなかったことが前提となる手続です(調停前置主義)。
裁判(訴訟)手続の途中で、裁判官から和解を促されるケースもありますが、それでも和解できない場合には、判決によって離婚が認められるかどうか等が判断されます。
相手方(配偶者)が離婚に応じなかったり、離婚条件に合意しなかった場合でも、裁判所の判決により最終的な判断がなされるという点が、裁判離婚のメリットといえます。
一方、裁判離婚の場合、裁判(訴訟)手続を行う上で専門的な知識や経験が要求されたり、裁判所で尋問がなされたり、相手方(配偶者)の対応次第では1年半程度時間を要するケースもあるなどのデメリットもあります。
5 弁護士に依頼するかどうか
弁護士に依頼するメリットとしては次の内容が挙げられます。
ⅰ 相手方(配偶者)との交渉窓口が弁護士になり、精神的な負担が軽くなる。
離婚を考えるに至った経緯にもよりますが、夫婦間で離婚の協議をする場合、精神的な負担が大きくなり、落ち着いて検討できなくなることも少なくないと思われます。
このような場合でも、離婚協議に関する窓口が全て弁護士になるため、精神的な負担が圧倒的に軽くなります。
ⅱ 弁護士に、検討すべき内容を整理して、判断する上でのポイントを説明してもらえる。
相手方(配偶者)との離婚条件等を考える上でのポイントを、自分でうまく整理できずに悩んでしまったり、パニックになってしまう方も時々いらっしゃいます。
弁護士がお話を聞いて、検討すべき内容を整理して、判断する上でのポイントを説明することにより、落ち着いて、離婚条件等について考えることができるようになります。
ⅲ 法的な検討を踏まえて、離婚条件が妥当かどうか弁護士にアドバイスしてもらえる。
相手方(配偶者)や調停委員などが提示した離婚条件が法的に妥当なものかご自分ではなかなか判断できない場合も少なくないものと思われます。
このようなときに、法的に無理筋の主張をしてしまうと、調停委員の説得対象とされてしまい、かえって不利な内容の条件で合意せざるを得なくなるような方も見受けられます。
そのようなことがないように、提示された離婚条件が法的に見て妥当かどうか、弁護士にアドバイスを求めることができます。
また、無理筋ではないレベルで、こちら側に有利な条件を引き出す方法についても、弁護士からアドバイスしてもらったり、主張してもらうことができます。
ⅳ 裁判所の手続で調停委員や裁判官から言われたことの意味について、弁護士に解説してもらえる。
裁判所の手続においては、専門的な知識が必要であったり、調停委員や裁判官が中立的な立場であってストレートに表現できない事柄もあったりするため、調停委員や裁判官の発言の意図がよく分からないということもあります。
このような場合であっても、例えば、相手方(配偶者)が調停委員から話を聞いてもらっている時間帯に、待合室で弁護士から解説をしてもらうことで、調停委員の発言の意図を理解して、自分の次のターンまでの間に、話すべき内容を検討しておくことができます。
ⅴ 裁判所に代わりに出頭してもらえる。
調停手続では、調停委員が夫婦のそれぞれから直接お話を聞くため、原則として、裁判所に出頭することを求められます。
そのため、どうしても都合がつかない場合などには、相当程度先の期日が指定されてしまうことがあり、離婚が成立するまでに時間を要してしまうことになります。
このような場合でも弁護士の都合が合えば、代わりに調停手続に出頭して手続を先に進めることが可能になります。
一方、弁護士に依頼するデメリットとしては次の内容が挙げられます。
ⅰ 弁護士費用の問題
現在、弁護士費用は自由化されており、依頼する弁護士によって費用が異なります。
もっとも、弁護士費用の金額は、ご自分の希望に沿った解決に近づけるかどうかとは、あまり関係がないものと考えます。
弁護士によっては、費用を明確にしない方もいるようですので、実際に依頼をされる際は、弁護士と委任契約をする際の委任契約書などで、費用が明確になっているかどうか確認されることをお勧めいたします。
ⅱ 弁護士との相性の問題
離婚事件を解決するため長期間を要する場合が少なくありません。
特に裁判離婚の場合には、1年以上の時間を要することもあります。
このように、離婚事件の解決のために、長い時間を共有することになるわけですから、弁護士との相性が良くない場合には相当なストレスとなります。
弁護士に法律相談される際などに、ご自分との相性も確認されることをお勧めいたします。
弁護士に依頼するかどうかは、とても悩ましいと感じるかもしれません。
お医者さんなどと異なり、実際に弁護士に会ったことがない方は少なくないものと思われます。
テレビドラマやゲームなどのイメージで、なんだか弁護士って偉そうだったり、「異議!」とか言って怖そうだと感じる方もいるでしょう。
確かに、離婚の調停手続をご自分で進めている方も実際にいらっしゃいます。
しかしながら、調停手続で話し合いを進めている途中で行き詰まり、調停委員や裁判官から弁護士に依頼することを勧められて、途中から弁護士に依頼する方も時々見受けられます。
このような場合、これまで発言した内容が裁判所に記録されたり、既にご自分の考えを書いた書面を裁判所に提出してしまっていることから、途中から弁護士に依頼したとしても、これまでの主張を変えることは難しく、必ずしも希望に沿う解決に結び付けられないこともあります。
弁護士に依頼する場合は、できるだけ相手方(配偶者)との交渉の初期段階から依頼された方が、ご自分の希望する解決に近づける可能性は高くなるといえます。
そうは言っても、弁護士に依頼するかどうかはやっぱり悩ましいと思われる方もいらっしゃるでしょう。
そのような方は、仮に上手くいかなかったこと想定して、弁護士に依頼した場合と依頼しなかった場合とで、「どちらの後悔が自分にとって大きいと感じられるか」考えてみても良いかもしれません。
「弁護士に依頼した場合の後悔の方が大きい」と感じられるのであれば、弁護士には依頼しない方が良いかもしれません。
一方、「弁護士に依頼しなかった場合の後悔の方が大きい」と感じられるのであれば、早期に弁護士に依頼した方が良いでしょう。
離婚を考えたときに、また、弁護士に依頼するかどうか悩まれたときに、この記事を参考にしていただければ幸いです。
また、この記事をお読みになって、直接私にご相談したいと思われた場合には、ぜひ、電話やメールでお問い合わせの上、当事務所にご来所ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。