目次
1 はじめに
2 単純承認とは
4 具体例
1 はじめに
最近、親が亡くなったので相続放棄をするかどうか迷っている、亡くなった親が一人で住んでいた建物が老朽化しているので取り壊したいが問題ないかというような相談が複数ありました。
今回は、相続放棄を考えている場合に、亡くなった方(被相続人)の建物を取り壊したりすることが問題にならないかなどについて、ご説明させていただきます。
2 単純承認とは
前提として、単純承認(民法920条)についてご説明いたします。
民法920条は「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。」と定めています。
「無限に被相続人の権利義務を承継する」とは、被相続人の一身専属権(扶養請求権など)を除いて、一切の権利義務を全面的かつ無条件に承継するという意味です。
例えば、ある相続人が単純承認をした場合、当該相続人は被相続人の消極的相続財産(借金など)も自分の財産で支払う義務が生じてしまうことになります(被相続人に対してお金を貸していた者は、単純承認した相続人に対して、お金を返せと言えることになります)。
そして、民法921条1号は、「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」は、「相続人は、単純承認したものとみなす。」と定めています。
ではどのような場合、相続財産の「処分」をしたといえるのでしょうか。
3 相続財産の「処分」とは
相続財産の「処分」(民法921条1号)とは、相続財産の現状、性質を変える行為をいいます。
そして、判例によれば、相続財産の「処分」とは、相続放棄(又は限定承認)の前になされたものに限定されます。
また、判例によれば、民法921条1号が適用されるためには、相続人が自己のために相続が開始した事実を知りながら相続財産を処分したか、又は、少なくとも相続人が被相続人の死亡した事実を確実に予想しながらあえてその処分をしたことを要するとされています。
4 具体例
亡くなった親が一人で住んでいた建物が老朽化しているので取り壊した場合はどうなるのでしょうか。
相続財産の「処分」(民法921条1号)とは、財産の現状、性質を変える行為を指し、法律行為だけではなく、事実行為も含まれます。
そのため、建物の取り壊しは事実行為として「処分」にあたり、これを行った場合には、民法921条1号に該当するため、単純承認の効果が生じてしまいます。
相続放棄を検討している場合は、このような行為をしないように気を付ける必要があります。
それでは、亡くなった親が一人で住んでいた建物の周りに、崩れそうなブロック塀があり、このブロック塀の補修工事をすることも「処分」にあたってしまうのでしょうか。
民法921条1号ただし書は、「保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。」と定めており、「処分」にはあたらないとしています。
そして「保存行為」とは、相続財産の保全すなわち財産の現状を維持するのに必要な行為を指します。
崩れそうなブロック塀の補修工事は保存行為に該当するため、民法921条1号ただし書により「処分」にはあたらず、単純承認したものとはみなされません。
場合によっては、相続放棄をした後に生じ得る問題点についても検討しておく必要があります。
相続放棄をするかどうか迷われており、相続財産の処分等を悩まれている場合は、できるだけ早期にお近くの弁護士(法的紛争解決の専門家)に相談されることをお勧めいたします。