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遺言書は必要なのか?

 目次

1 はじめに

2 遺言書の書き方

3 遺言書の種類

4 遺言書の記載例

5 遺言書の注意点

1 はじめに

 相続の話になると、必ずと言って良いほど「遺言書」のことを耳にするかと思います。

 それでも、「遺言書」は死を連想させますし、誰にどのように分配したら良いのか頭を悩ませることにもなるため、「よし、遺言書を書くぞ!」とはならない方もいらっしゃるかと思います。

 しかしながら、「遺言書」をきちんと作っておけば、相続人や関係者の方々に迷惑をかけないようにしておくことができます。

 「遺言書」がないと、相続人は遺産分割協議をする必要があります。

 「遺言書」がないばかりに、相続人間で遺産分割協議がなかなか進まず、家庭裁判所で遺産分割調停を行っている事例は少なくありません。

 「子供たち皆で話し合って、都合の良いように分配してくれれば、それでいいじゃないか。」と思われる方もいらっしゃるかと思います。

 しかしながら、どのように遺産を分配するかを話し合うことは、相続人の皆に大きなストレスを与えます。

 また、当初は争うつもりがなかったとしても、遺産の分配の話合いの際、「俺がおやじの面倒をみてきたんだ。」などと思わぬ喧嘩が起こったり、大きな紛争になってしまうこともあり得ます。

 このようなことにならないためにも、亡くなる前に、きちんした「遺言書」を作っておく必要があります。

 なお、公正証書遺言の作成件数は増加傾向にあり、平成29年の法務省の調査によれば、平成19年の公正証書遺言の作成件数(全国)は7万4160件であるのに対し、平成29年の公正証書遺言の作成件数(全国)は11万0191件となっております。

 

2 遺言書の書き方

 それでは遺言書はどのように書けば良いのでしょうか。

 遺言書の構成は、遺言事項と付言事項に分けることができます。

(1) 遺言事項

 遺言事項とは、遺言できると法律に列挙されている事項のことであり、法的な効力が認められるものです。

 例えば、自身の財産(現預金、不動産、株式等)を誰にどのように引き継がせるか、遺言執行者をどうするか、祭祀承継財産はどうするかといったような事項が遺言事項になります。

(2) 付言事項

 付言事項とは、いわば手紙(メッセージ)のようなものであり、法的な効力がない事項です。

 例えば、「自分がいなくなっても、家族みんなで支え合って、仲良く暮らしてほしい。」といった内容や、「長男は家を建ててあげたから、他の相続人より相続分は少ないけれど、その点をどうか理解してほしい。」といった内容が考えられます。

 このような付言事項を書くことで、相続人の気持ちに働きかけ、わだかまりが生じるリスクを減らして相続に関する紛争を予防し、遺言者の意思を円滑に実現することにつなげることができます。

3 遺言書の種類

 遺言書にはいくつか種類がありますが、実務上多いのは、公正証書遺言と自筆証書遺言です。

(1) 公正証書遺言

 公正証書遺言は、公証役場において公証人に作成してもらう遺言書です。

 公正証書遺言のメリットは、①公証人は元裁判官や元検察官などの法律の専門家であるため、方式や内容の不備で無効になるおそれがほとんどないこと、②原本を公証人が保管するため紛失・改変のおそれがないこと、③相続開始後に裁判所の検認手続を行う必要がないことが挙げられます。

 一方、公正証書遺言のデメリットは、①公証役場の費用がかかること、②証人が2人必要であること(未成年者、推定相続人、受遺者、推定相続人と受遺者の配偶者及び直系血族は証人になれません。)が挙げられます。

(2) 自筆証書遺言

 自筆証書遺言は、その名のとおり、遺言者本人が自筆で遺言書を作成する遺言書です。

 自筆証書遺言のメリットは、①いつでも簡単に作成できること、②作成費用がかからないことが挙げられます。

 一方、自筆証書遺言のデメリットは、①作成方式が厳格であり、争われた場合に無効になるおそれがあること(全文、日付、氏名を自署して押印する必要があります。ただし、財産目録はパソコンで作成した上で、各ページに遺言者が署名押印しても大丈夫です。)、②自身で保管した場合、紛失・改変のおそれがあること(ただし、法務局に保管してもらう制度もあります。)、③裁判所の検認手続を行う必要があること(ただし、法務局に保管してもらう制度を利用した場合には検認は不要です。)が挙げられます。

4 遺言書の記載例

 遺言書の記載例は次のとおりです。

        遺 言 書

 

 遺言者●●●●は,以下のとおり遺言する。

第1条 遺言者は遺言者の有する下記不動産を妻●●●●(昭和●年●月●日生)に相続させる。

               記

 () 土   地

  所   在  仙台市●区●町●丁目

  地   番  ●番●

  地   目  宅地

  地   積  ●●●.●●㎡

 () 建   物

  所   在  仙台市●区●町●丁目●番地

  家 屋 番 号  ●番地●の●

  種   類  ●●

  構   造  ●●

  床 面 積  1階 ●●●.●●㎡

         2階 ●●●.●●㎡

第2条 遺言者は,遺言者の有する下記財産を長男●●●●(昭和●年●月●日生)に相続させる。

              記

 () ●●株式会社の株式●株

 () ●●銀行●●支店の遺言者名義の定期預金(口座番号●●●●●)

第3条 遺言者は,遺言者の有する下記財産を長女●●●●(昭和●年●月●日生)に相続させる。

              記

 () ●●株式会社の株式●株

 () ●●銀行●●支店の遺言者名義の定期預金(口座番号●●●●●)

第4条 遺言者は,遺言者の有する下記財産を孫●●●●(平成●年●月●日生)に遺贈する。

              記

 () ●●株式会社の株式●株

 () ●●銀行●●支店の遺言者名義の普通預金(口座番号●●●●●)

第5条 遺言者は,以上に定める財産のほか,一切の財産を妻●●●●に相続させる。

第6条 遺言者は,祖先の祭祀の主宰者として,長男●●●●を指定する。

第7条 遺言者は,この遺言の遺言執行者として下記の者を指定する。

              記

  住  所  仙台市●●区●町●丁目●番●号

  職  業  弁護士

  氏  名  ●●●●

  生年月日  昭和●年●月●日生

(付言事項)

 この遺言書を書いた日は,私の70歳の誕生日です。

 私の死後,お母さん(妻のこと)の生活のことが一番心配です。それで,お母さんに財産を多く残すようにしました。いずれ●●や●●がお母さんの財産を相続することになるでしょうから,2人ともこの点を理解してもらいたいと思います。

 最後に,●●と●●にくれぐれもお母さんのことをお願いします。

 みんなとめぐり逢えて,とても有意義で楽しい人生を送ることができました。

 心から感謝しています。

 本当にありがとう。

  令和●年●月●日

  仙台市●●区●町●丁目●番●号     

  遺言者         ●●●●  印

5 遺言書の注意点

 最後に、遺言書を作成するにあたっての注意点を述べておきます。

(1) 法律上の要件が厳格であること

 遺言書は、法律上の要件が厳格であり、この要件を満たさない場合、無効となるおそれがあります。

 例えば、「令和5年3月吉日」といった表記の場合に遺言書が無効とされた事例があります。

 また、2人以上の者が同じ証書で遺言することができなかったり、加筆・訂正方法に法律上の定めがあったりします。

 法律上の要件に不備がないかについては、紛争解決の専門家である弁護士にチェックしてもらう方法が一番おすすめです。

(2) 遺言書が万能ではないこと

 遺言書を作成したとしても、遺留分(兄弟姉妹以外の相続人の最低限の取り分のようなものです。)を侵害されたとして、受遺者が遺留分侵害額請求(金銭請求)をされる可能性があります。

 また、遺言は撤回することが可能であり、受遺者も遺贈の放棄をすることができるため、必ずしも作成した遺言書の内容が実現されるとは限りません。

 紛争解決の専門家である弁護士に遺言書作成等を依頼すれば、後の紛争予防を見据えて、遺留分に配慮した遺言書作成をすることができますし、また、遺言書作成以外の方法(民事信託など)についても対応することが可能です。

 遺言書の作成についてお考えの方は、一度弁護士に相談されることをおすすめいたします。

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