目次
1 はじめに
5 まとめ
1 はじめに
前回の記事では、「民事信託」はあくまでも財産管理の手段であるため、身上監護については任意後見制度等による別の手当が必要になる旨説明しました。
皆さんの中には、将来、認知症などで判断能力が十分ではなくなった場合に、自分の財産や生活を守ってもらうための人を決める方法として、任意後見制度(任意後見契約)があると聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。
それでは任意後見契約とはどのようなものなのでしょうか。
2 任意後見契約とは?
任意後見契約とは、認知症などにより判断能力が低下した時に備えて、公正証書により、自分の生活、療養看護及び財産の管理について受任者に代理権を与える委任契約です(判断能力が低下した時に、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで契約の効力が生じます)。
平成12年に、自分の生き方は自分で決めるという自己決定権の尊重と、本人保護の観点から、任意後見制度が新たに設けられました。
任意後見契約のメリットとしては、①本人が信頼できる受任者を選任できること、②代理権の内容を自由に決められること、③任意後見監督人や裁判所の監督により受任者の権限濫用を防止でき、本人の保護が図られることが挙げられます。
一方、任意後見契約のデメリットとしては、①任意後見監督人を選任すると費用がかかること、②任意後見監督人と受任者の関係が上手くいかない場合に対処が難しいことが挙げられます。
3 任意後見契約の3類型
任意後見契約には、効力が発生する時期の違いで、3つの類型(将来型、移行型、即効型)があります。
(1) 将来型
将来型は、本人が健常な時に契約をして、判断能力が低下した時に、任意後見監督人が選任されて初めて任意後見契約の効力が生じるものです。
任意後見契約に関する法律が予定している基本となる形態です。
任意後見監督人が選任されるまで、財産管理を伴わない「見守り契約」が締結されるケースもあります。
(2) 移行型
移行型は、民法に基づく任意の財産管理等委任契約を締結して、その時から受任者に本人の財産管理等の事務を委任し、本人の判断能力が低下した後は、任意後見監督人の監督下において受任者にそのまま事務処理を継続してもらうという形態です。
もっとも、本人の判断能力が減退しているにもかかわらず、任意後見監督人の選任申立てをしないまま、受任者が財産管理を継続するなど、受任者の権限濫用が生じるおそれがあるのが、この形態です。
受任者の権限濫用を防止するために、任意後見監督人が選任されるまでの間においても、弁護士等の専門家を監督人に定めることもあります。
(3) 即効型
即効型は、任意後見契約締結後、ただちに任意後見監督人を選任して契約の効力を発生させる形態です。
極めて例外的な活用方法であり、本人の判断能力に疑問が残る場合には、補助開始の申立てなどを検討するべきでしょう。
4 法定後見制度との違い
法定後見制度は、本人との判断能力が低下した後に、家庭裁判所に申立てを行って成年後見人等を選任してもらい、本人の財産管理と身上監護に関して保護を図るものです。
任意後見制度との違いは、本人の判断能力が低下した後に行うところにありますが、選任される成年後見人等は家庭裁判所が決めるというところに大きな特徴があるといえます。
令和2年の最高裁判所の統計(成年後見関係事件の概況)によれば、成年後見人等に選任された人の割合は、親族以外の第三者(弁護士、司法書士、社会福祉士等)が約80.2パーセントである一方、親族(配偶者、親、子、兄弟姉妹等)はわずか約19.8パーセントとなっております。
申立ての際に、申立書に成年後見人等の候補者を書く欄があるものの、必ずしも記載したとおりに家庭裁判所が選任するわけではなく、結果として親族が成年後見人等に選任されている割合は、わずか2割弱という結果になっているのが現状です。
親族以外の第三者が専門家(弁護士、司法書士、社会福祉士等)である場合、判断能力が低下した方の財産から月額数万円の報酬が支払われることにもなります(東京家庭裁判所の「成年後見人等の報酬額のめやす」参照)。
ご自分が認知症などになって判断能力が低下した際に、信頼できる親族に財産管理や身上監護を任せたい場合には、認知症などになる前に、任意後見契約を締結されることをお勧めいたします。
5 まとめ
前回の記事では、遺言書で定められない財産管理の方法として「民事信託」という制度があることを説明しました。
もっとも、「民事信託」では、財産管理は可能であっても、身上監護(施設との入所契約等)を行うことができないため、別途、任意後見契約などを利用する必要があります。
信頼できる親族に任せたいとお考えであれば、任意後見契約を締結されることが望ましいです。
任意後見契約は公正証書で行う必要があり、どのような契約内容にするかは、弁護士に相談されることをお勧めいたします。
私は家庭裁判所での後見監督業務を経験したことがありますので、契約内容をご相談されたい方は、ぜひ、電話やメールでお問い合わせの上、当事務所までご来所ください。