目次
1 はじめに
1 はじめに
売掛金や貸金など、債権回収に苦労されている中小企業の経営者の方々も少なくないと思われます。
以前掲載した「債権回収で困ったときは」という記事では、実際に債権回収で困った場合の対応方法についてご説明いたしました。
今回は、視点を変えて、債権回収で困らないために、あらかじめ準備しておいた方が良いことについて、ご説明させていただきます。
2 契約書を作成しておく
支払いを催促しても、相手方が支払いを拒んだり、支払わない場合、民事訴訟を提起することが考えられます。
民事訴訟で相手方が争った場合に、裁判所にこちら側の言い分を認めてもらい、勝訴判決を得るためには、争いになっているポイントを証明するための証拠が必要になります。
契約(売買契約や消費貸借契約など)が成立したかどうかが争われた場合、証拠として最も重要になるのは「契約書」になります。
民事訴訟に勝つためには「契約書」が最重要の証拠となると言っても過言ではありません。
それでは、契約はどのようにして成立するのでしょうか。
例えば、X社が「商品A1個を50万円で売ります。」という申込み(の意思表示)をし、これに対してY社が「商品A1個を50万円で買います。」という承諾(の意思表示)をすれば、X社とY社の双方の意思が「商品A1個を50万円で売買する」という内容で合致し、売買契約が成立することになります。
契約書を作成する場合には、①誰が誰に対して(当事者の特定)、②何を(目的物の特定)、③どうする(履行方法の特定)を漏れなく記載する必要があります。
以前からの商慣習や取引先との間の力関係などがあり、契約書を作っていないという会社も少なくないものと思われます。
しかしながら、債権回収のリスクを回避するためには、契約書を作成しておくことをお勧めいたします。
3 人的担保を設定しておく
契約書を作成しておくことは、民事訴訟において、債権の存在を証明するための「証拠」の準備に過ぎないという側面も否定できません。
契約書を作成しただけでは、債権を現実に回収することまで保証されるものではありません。
そこで、債権回収を確実なものとするために、「担保」を設定しておくことが考えられます。
「担保」には、①人的担保と②物的担保があります。
①人的担保の代表的なものとしては、「連帯保証人」が挙げられます。
連帯保証人を付けるメリットは、連帯保証は人に対する権利であるため、連帯保証人の有する全ての財産を回収対象財産とすることができる点です。
また、連帯保証人と契約書を作成するだけで担保設定ができ、物的担保と比較して設定手続が容易であることもメリットの一つです。
一方、連帯保証人のデメリットは、連帯保証人が破産した場合に回収ができなくなったり、連帯保証人が死亡した場合に、その相続人が相続放棄をしてしまう可能性がある点です。
契約書を作成する際は、連帯保証人に実印を押印させて印鑑証明書の交付を求めておくこと、連帯保証人に自署させて本人の筆跡を残しておくこと、契約書作成の前後のやりとりをメールで行うなど証拠化しておくと、後に裁判になった場合に役立ちますのでご留意ください。
また、当然ではありますが、連帯保証人の資力にも注意しておく必要があります。
4 物的担保を設定しておく
②物的担保の代表的なものとしては、「抵当権」が挙げられます。
抵当権は物(不動産)に対する権利であるため、物(不動産)の所有者が破産したり、死亡しても、その物(不動産)の価値が大きく下落しない限り、その物(不動産)から債権を回収することができる点がメリットになります。
一方、抵当権のデメリットとしては、抵当権を設定した物(不動産)の価値が大きく下落したとしても、所有者の他の財産から債権回収することができないことや、抵当権設定登記手続という契約書と比較して手間や費用(登録免許税や司法書士費用)がかかるという点があります。
①人的担保(連帯保証人等)と②物的担保(抵当権等)のメリット・デメリットを踏まえた上、取引先と契約をする際に、いずれか(あるいは両方)の担保を設定しておくと、債権回収の実現可能性を高めることができます。
どのような契約書にしておくべきか、どのような担保を設定しておくことが望ましいか、専門的な判断を要することが多々ありますので、あらかじめ法律の専門家である弁護士に相談されることをお勧めいたします。