目次
1 はじめに
1 はじめに
罪を犯してしまった場合、 今後の捜査の進行によって、仕事や家族との関係などに大きな影響が生じる可能性があります。
そのため、特に初めて罪を犯してしまった方々の中には、これから先のことに対する不安感が大きくなり、夜も眠れない状況になる方も少なくない印象です。
今回は、法律相談時に、初めて罪を犯してしまった方々から最近よく聞かれる内容である①「身柄拘束(逮捕・勾留)を検討する際のポイント」、②「刑の重さはどのように決まるのか」についてご説明いたします。
2 身柄拘束を検討する際のポイントは
捜査機関(警察署や検察庁)が身柄拘束(逮捕・勾留)するかどうか判断する際のポイントは、主に4つあると考えます(次の(1)(2)(3)(4)。もっとも、厳密には逮捕と勾留の要件(条件)は違いますが、ここでは説明を割愛します)。
(1)罪を犯した疑いが強いこと
罪を犯した疑いが強いことが、身柄拘束をする際の当然の前提になります。
捜査機関が身柄拘束することを検討している場合、罪を犯した疑いが強いことを示すための資料を収集することになります。
(2)証拠を隠したり壊したりするおそれがあること
罪を犯した人(以下「被疑者」といいます。)が証拠を隠したり壊したりするおそれがあることも身柄拘束を検討する際のポイントになります。
被疑者が被害者や目撃者の連絡先を知っているかどうか、犯行が組織的なものかどうか、証拠の収集状況等も考慮されることになります。
(3)逃げるおそれがあること
被疑者が逃げるおそれがあることも身柄拘束を検討する際のポイントになります。
被疑者に同居している扶養家族(配偶者や子ども)や身元引受人がいるかどうか、定職に就いているかどうか等も考慮されることになります。
(4)身柄拘束をする必要性があること
被疑者の身柄を拘束する必要性があることも身柄拘束を検討する際のポイントになります。
被疑者が失職するおそれがあるかどうか、被疑者が病気に罹患しているかどうか、被疑者が近くにいる必要がある家族がいるかどうか等も考慮されることになります。
なお、身柄拘束をされることになった場合、刑事裁判にかけるかどうか(起訴するかどうか)、検察官が判断するまで、最長20日間程度、警察署の留置施設で過ごすことになります(起訴した場合、さらに身柄拘束が続きます)。
3 刑の重さはどのように決まるのか
刑事裁判においては、犯した罪にふさわしい刑事責任が検討されることになります。
犯した罪ごとに法律で定まった刑の幅(法定刑)があります。罪の重さはこの幅の中で決まります。
例えば強盗罪であれば5年以上20年以下の有期懲役に処されます。
もっとも、法定刑の幅は上記のように広い場合が多く、犯した罪をある程度類型化して捉えた上で(例:ひったくり強盗、タクシー強盗)、過去の裁判例から、大まかな量刑の傾向を把握して、ふさわしい刑事責任(刑の重さ)が検討されることになります。
さらに、犯した罪それ自体に関する事情(罪を犯した動機、犯行の態様、生じた結果)のうち重要なものによって、ふさわしい刑事責任(刑の重さ)の幅が絞り込まれます。
加えて、犯した罪それ自体に関わらない事情(反省の程度、前科、周囲の監督状況、被害弁償、被害感情、事件の社会的影響等)が考慮された上で、具体的な刑事責任(刑の重さ)が決められることになります。
4 刑を軽くするためにどのようなことができるか
罪を犯した行為に関する事情(動機、犯行態様、結果)を過去に戻って変えることはできません。
それでは犯した罪の刑を軽くするために、何かできることはないのでしょうか。
私は、次のとおり、上記3で説明した「犯した罪それ自体に関わらない事情」については、できることがあるものと考えます。
(1)反省文を書く
刑を軽くするためにできることとしては、反省文を書くことが考えられます。
もっとも、ただ単に「悪いことをしたと思っている。」「もう二度とこのようなことはしないと反省しています。」と抽象的なことを書いただけでは、捜査機関(警察署、検察庁)や裁判所から、「本当に反省しているのか?また同じことを繰り返してしまうのではないか?」と疑われてしまいかねません。
私は、反省文を書く際は、①原因、②対策、③今後の生活の見通しの3つに分けるのが良いと考えています。
①原因は、これまでの自分であれば罪を犯さなかったのに今回犯してしまったのはどうしてか、他の人は罪を犯さないのに自分が今回犯してしまったのはどうしてかという視点から考えて書く必要があります。
②対策は、①原因に対応する形で、できるだけ具体的に書くことが重要です。
③今後の生活の見通しは、犯罪を行わないで平穏に生活をしていく将来のイメージを、できるだけ具体的に書くことが望ましいです。
このような手順で反省文を書くことで、二度と同じような犯罪を繰り返さないように深く内省していることが、読み手に伝わるようになるものと考えます。
(2)身元引受人に身元引受書を作成してもらう
可能であれば、同居の家族(配偶者、親など)や職場の上司にお願いして身元引受人になってもらい、二度と犯行を行わないように厳重に監督する旨の身元引受書を作成してもらえると良いでしょう。
(3)謝罪文を書く
単に「ごめんなさい。」、「誠心誠意謝罪します。」などと書くだけでは表面的な謝罪文になってしまい、かえって被害者の被害感情を悪化させてしまいかねません。
謝罪文を書く際は、今回の犯行によって、被害者がどのように追い込まれてしまい、どのような気持ちになったのか、被害者の立場になって、可能な限り具体的に被害者の状況を想像した上で、ご自分として、現在どのような謝罪の気持ちを持っているのか、今後どのように償っていくつもりなのか、具体的に表現することが望ましいです。
もっとも、被害者によっては、謝罪文を受け取ることを拒否される方もいますので、その場合は送ることは諦めて、刑事裁判の際に(検察官に異議がなければ)証拠として提出することも考えられます。
(4)被害弁償をする
被害者に弁償金を受け取る意向がある場合、被害弁償を行うことが考えられます。
(検察官の終局処分(起訴するかどうか決める処分)の前の段階であれば、被害者の意向によっては、被害届を取り下げてもらえるケースもあります。もっとも、生じた結果に見合わない低廉な金額で無理に被害届の取り下げを迫れば、脅迫罪などの別の罪に問われる可能性もあります。仮に低廉な弁償金で被害者が被害届を取り下げたとしても、真意に基づく取り下げかどうか後に争いになる可能性や、場合によって民事上の損害賠償責任を負う可能性もあります。そのため、生じた結果に見合わない低廉な金額で無理に被害届の取り下げを要求するようなことは控えるべきであるというのが当職の見解です。)
被害弁償を申し入れる際は、申入れと同時に謝罪文も送ることが望ましいと考えます(被害者が謝罪文を受け取る意向の場合)。
罪を犯してしまった場合は、これまで説明した他にも、警察署での取調べの際にどのように対応したら良いのか(黙秘権の行使、調書の訂正、署名押印の拒否等)、押収された物品の返還、刑事裁判のために準備しておくべきことなど、検討しておくべきことが多いです。
また、警察署での対応などを誤ってしまうと後で覆すことが困難なこともあります。
罪を犯してしまい、警察署から事情聴取で呼び出しを受けた場合には、できるだけ早期に刑事弁護の専門家である弁護士に相談されることをお勧めいたします。