目次
1 はじめに
4 おわりに
1 はじめに
会社の従業員が何らかの犯罪で逮捕されてしまった場合、経営者としては、逮捕された従業員とそのご家族の今後、同従業員が担当していた業務を誰が代わりに行うか、同従業員の処分、従業員が逮捕されたことにより生じる会社の社会的評価(取引先の信頼)の低下など、様々なことを考えることになると思われます。
今回は、特に、逮捕された従業員の懲戒処分(解雇を含む)に関してご説明いたします。
2 懲戒処分ができるか
会社の従業員の私生活上の非行や違法行為(私生活上の非違行為)は、本来、会社とは関係がないため、懲戒権が及びません。
しかしながら、過去の裁判例上、従業員の私生活上の非違行為であったとしても、企業秩序に直接関連するもの及び企業の社会的評価を毀損するおそれのあるものについては、懲戒処分の対象になります。
そのため、従業員が何らかの罪を犯して逮捕されるなど、非違行為があった場合には、それが企業秩序に直接関連するものか、会社の社会的評価を毀損するものかを検討した上、懲戒処分の対象となるか慎重に検討する必要があります。
3 過去の裁判における判断基準
従業員が罪を犯して逮捕・起訴されたところ、従業員の行為が会社の労働協約及び就業規則所定の懲戒解雇又は諭旨解雇事由である「不名誉な行為をして会社の対面を著しく汚した」に当たるか否かが争点になった事件において、最高裁判所は次のような判断基準を示しました。
すなわち、「不名誉な行為をして会社の対面を著しく汚した」というためには、「必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではない」が、「当該行為の性質・情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」との判断基準です。
懲戒処分の種類を選択するに当たっても、上記裁判例の判断基準を参考にして、会社に与える影響等を慎重に検討することが有益なものと考えます。
従業員が何らかの罪を犯してしまった場合には、従業員の行為態様(凶器の有無、執拗さ、悪質性など)、科された刑罰の重さ(罰金の金額、懲役刑の年数、執行猶予の有無)、被害者との示談の有無、会社が当該犯罪の撲滅に向けて積極的な取り組みをしているなどの諸事情が考慮されることになります。
これらの諸事情を勘案して、懲戒処分の可否及び適切な懲戒処分の内容を選択することになります。なお、過去の裁判例においては、(痴漢の事案ではありますが)諭旨解雇を無効と判断したものもあれば、懲戒解雇を有効と判断したものもあります。
4 おわりに
従業員が逮捕されてしまった場合、経営者として、上記で説明した事項以外にも様々な事項を検討する必要があるかと存じます。
このような場合には、早期に見通しを立てるためにも、できるだけ早い段階で、法的紛争解決の専門家である弁護士に相談されることをお勧めいたします。