目次
4 おわりに

前回の記事では、最近増えている「遺産分割における不動産の評価問題」について、路線価・固定資産税評価額や無料査定書を用いた簡易な評価方法と、底地などの利用権負担が付いている不動産の評価について解説いたしました。
遺産分割における不動産の評価において、当事者間の対立をより複雑化させる要因となるのが、「特殊な権利や負担」が設定されているケースです。 そこで第2回となる本記事では、遺産分割において特に専門的な判断が求められる「抵当権が設定されている不動産の評価」および「配偶者居住権の評価」について、詳しく解説いたします。
1 はじめに~不動産に潜む複雑な権利関係~

実務上、相続財産に含まれる不動産は、法的に何の制約もないクリーンな状態であるとは限りません。 生前に被相続人(お亡くなりになった方)が住宅ローンや事業用資金を借り入れており、その担保として「抵当権」が設定されたままになっているケースは非常に多く見られます。
また、近年(令和2年施行)の民法改正により新たに創設された「配偶者居住権」を設定するかどうかが、不動産の評価や遺産分割の枠組み自体を大きく左右するケースも急増しています。 これらの問題は、一般的な不動産業者の査定額だけでは解決できず、法律実務を踏まえた専門的な評価の調整が必要となります。
2 抵当権が設定されている不動産の評価

被相続人が住宅ローンを残したまま亡くなった場合、不動産には金融機関の「抵当権」が付着しています(※団体信用生命保険に加入しており、死亡によりローンが全額完済されるケースを除きます)。このような不動産を遺産分割で分ける場合、評価額をどのように考えるべきでしょうか。
(1)原則的な考え方(マイナス財産の切り離し)
法的な大原則として、借入金などの「債務(マイナスの財産)」は、遺産分割協議の対象にはなりません。被相続人が死亡した瞬間に、各法定相続人がその法定相続分に応じて自動的に借金を引き継ぐとされているからです。 しかし、それでは「不動産は長男が取得するが、ローンの残債務は長男と次男で半分ずつ負担する」というような、実態に合わない不合理な結果になってしまいます。
(2)実務上の解決方法と評価額の算出
調停段階では相続人全員の同意があれば、借入金などの「債務」も協議の対象とすることが可能であり、遺産分割の調停実務においては、相続人全員の同意があることを前提として、「不動産を取得する相続人が、住宅ローンの残債務をすべて引き受ける(履行引受)」という合意を相続人間で行うこともあります。もっとも、この合意はあくまでも相続人間での合意であって、金融機関(債権者)との関係では、(1)の原則通り、各法定相続人がその法定相続分に応じて自動的に借金を引き継ぐことになります(金融機関(債権者)の承諾が得られれば、相続人間のうち一部の者のみが住宅ローンの残債務を全て引き受ける(免責的債務引受)も、理論上可能にはなります)。
「不動産を取得する相続人が、住宅ローンの残債務をすべて引き受ける」という合意をした場合、不動産の評価額は、「不動産の客観的な時価」から「ローンの残債務額」を差し引いた金額(控除説)を基準として、遺産分割の対象財産として計算することが公平になることが多いです。
【例】
不動産の時価が3000万円、住宅ローンの残高が1000万円の場合 長男がこの不動産を取得しローンを引き受ける場合、遺産分割の手続上は「長男は実質的に2000万円(3000万-1000万)の価値の財産を取得した」として、他の遺産(預貯金など)の配分や代償金の計算を行います。
(3)オーバーローンの場合(不動産価値より借金が多い場合)
では、不動産の時価が2000万円で、住宅ローン残高が3000万円あるような「オーバーローン」の場合はどうなるでしょうか。 この場合、差し引きすると不動産の価値はマイナスになってしまうため、遺産分割の計算上、その不動産の価値は「ゼロ」として扱われることが多いです(ただし、遺産全体を見渡しても借金の方が明らかに多いような場合には、遺産分割協議を行うのではなく、家庭裁判所での「相続放棄」の手続を速やかに検討する必要があります)。
3 配偶者居住権の評価

「配偶者居住権」とは、相続人となる配偶者がこれまで居住していた被相続人(亡くなった方)の所有していた建物に、遺産分割終了後、原則として、終身の間、無償で住み続けることができる権利です。残された配偶者の生活基盤を保護するため、令和2年4月より新たに認められた制度です。
(1)なぜ配偶者居住権が問題になるのか
例えば、遺産が「自宅不動産(2000万円)」と「預貯金(2000万円)」のみで、相続人が妻と子1人のケースを想定します。法定相続分は2分の1ずつ(各2000万円)です。 妻が今後の生活のために自宅に住み続けたいと希望して自宅(2000万円)を取得すると、妻の取り分はそれだけで満たされてしまい、今後の生活費となる預貯金が一切取得できなくなってしまいます。
ここで配偶者居住権を活用すると、自宅不動産の権利を「配偶者居住権(住む権利)」と「負担付所有権(所有するだけの権利)」に切り分けることができます。 例えば、妻が「配偶者居住権(評価額1000万円)」を取得し、子が「負担付所有権(評価額1000万円)」を取得するという分け方です。これにより、妻は自宅に住み続けながら、さらに預貯金から1000万円を取得することができ、その後の生活資金を確保できるようになります。
(2)配偶者居住権の評価方法
このように便利な制度ですが、「配偶者居住権をいくらと評価するのか」は極めて複雑な計算を要します。建物敷地の現在価値から、配偶者居住権付き所有権の価額(負担付き建物所有権と負担付き土地所有権等の価額の総和)を差し引いて算出します。
具体的には、①建物の法定耐用年数・経過年数、②配偶者の年齢に基づく平均余命、③ライプニッツ係数等の要素を考慮して専門的に算出されます。
計算式は非常に複雑であり、不動産業者の無料査定では算出できません。法律の専門家である弁護士が、法令や通達等の基準に従って精緻に計算を行い、他の相続人や裁判所等に対して論理的に説明・主張していく必要があります。
4 おわりに
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