目次
1 はじめに
3 遺産分割手続における配偶者居住権と審判で認められない場合
4 おわりに
1 はじめに

当事務所は、地域の皆様から相続に関するご相談を多数お受けしており、とくに遺産分割の紛争解決や遺留分侵害額請求などの事案に注力しております。相続は、残されたご家族のその後の人生に直結する極めて重要な問題です。中でも、長年連れ添った配偶者が亡くなられた後、残された配偶者の生活と住まいをどのように保障していくかは、超高齢社会を迎えた現代日本において非常に大きな法的課題となっています。
このような社会的背景を踏まえ、配偶者の「住み慣れた自宅での居住確保」と「老後の生活資金の確保」を両立させるために創設されたのが「配偶者居住権」という制度です。この制度は、上手く活用すれば配偶者の老後の安心に大きく寄与しますが、一方で、制度の仕組みや財産の計算方法が複雑であり、相続人間で意見が対立した場合には、必ずしも希望通りに認められるとは限りません。
本記事では、相続分野に強みを持つ当事務所が、「配偶者居住権」の基本的な制度概要や活用するメリットから、実務上問題となりやすい「家庭裁判所の審判で配偶者居住権が認められない場合」に至るまで、詳しく解説いたします。配偶者居住権の取得をご希望の方や、逆に他の相続人から配偶者居住権を主張されて対応にお困りの方は、ぜひ本記事をお読みいただき、当事務所へのご相談をご検討ください。
2 配偶者居住権とは?~制度の概要とメリット~

配偶者居住権とは、一言で言えば「残された配偶者が、これまで住んでいた家に、亡くなるまで(または一定期間)住み続けることができる権利」です。
(1)制度の意義と内容
法律的には、配偶者居住権の制度は、相続開始の時に被相続人の財産に属した建物に居住していた配偶者に、その居住建物の「全部」について無償で「使用及び収益」をする権限を認める制度とされています。ここで重要なのは、建物の「所有権」そのものを取得するわけではなく、建物を他の相続人が相続したとしても、配偶者は「居住する権利」だけを切り離して取得できるという点です。また、「無償」で居住建物の全部を使用・収益できるため、家賃を支払う必要はありません。
(2)成立要件と存続期間
配偶者居住権が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。
● 配偶者が、相続開始の時に、遺産である建物(建物持分を含む)に居住していたこと。
● 当該建物が、被相続人の単独所有あるいは配偶者と2人の共有にかかるものであること。
● 遺産分割、遺贈又は死因贈与により配偶者に取得させる旨が定められたこと。
また、配偶者居住権の存続期間は、別段の定めがないときは配偶者の終身の間とされていますが、遺産分割の協議や調停若しくは遺言において、終身ではない一定の存続期間を定めることも可能です。
(3)配偶者居住権を活用する最大のメリット
配偶者居住権の最大のメリットは、居住建物の所有権を取得する場合よりも低廉な価額で配偶者が居住権を長期的に確保することができる点にあります。
従来、遺産の大半が自宅不動産である場合、配偶者が自宅の所有権を相続すると、自己の相続分を使い切ってしまい、預貯金などの生活資金を一切受け取れない、あるいは他の相続人に代償金を支払わなければならないという問題がありました。 しかし、配偶者居住権の額は、居住建物の所有権を取得するよりも低廉なため、配偶者が遺産分割等により配偶者居住権を取得した上で更にそれ以外の遺産である金融資産等を取得しやすくなります。これにより、住み慣れた自宅での生活と、老後の生活資金の両方を確保しやすくなるのです。 さらに、居住建物の所有権を配偶者以外の相続人(例えば子ども)が取得することによって、将来配偶者が亡くなった際の二次紛争を防止することができるという利点もあります。
3 遺産分割手続における配偶者居住権と審判で認められない場合

配偶者居住権は、遺言等で事前に指定されていない場合、相続人同士の「遺産分割協議」によって設定するかどうかを決めることになります。しかし、建物を完全に自分のものとして自由に処分したい他の相続人との間で意見が対立し、協議がまとまらないことも多々あります。その場合、家庭裁判所における「遺産分割調停」、さらには調停も不成立となれば裁判官が決定を下す「遺産分割審判」へと手続きが進みます。
(1)遺産分割審判で配偶者居住権が認められる要件
家庭裁判所の審判によって配偶者に配偶者居住権を取得させるための要件(民法1029条)は、以下のいずれかの場合に限られます。
● 共同相続人間に、配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
● 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき。
(2)家裁の審判で配偶者居住権が認められないケースとは
上記要件2の通り、他の相続人が強硬に反対している(合意がない)場合でも、裁判所の判断で強制的に配偶者居住権を設定することは理論上可能です。しかし、これは無条件に認められるわけではなく、「所有者の不利益」と「配偶者の生活維持の必要性」が厳格に比較考量されます。
専門書においても、「家庭裁判所は、配偶者が優先的に配偶者居住権を取得できることを前提に遺産分割の審判をしてはならない」との指摘が参考になるとされています。したがって、以下のような事情がある場合には、「特段の必要性」がないとして、審判で配偶者居住権が認められないリスクが十分にあります。
- 配偶者に十分な資産・収入がある場合: 配偶者が多額の自己資金を有しており、別の住居を容易に確保できるなど、生活維持のために現在の建物に固執する必要性が乏しいと判断されるケース。
- すでに施設入所が確定している場合: 配偶者が病気や高齢のため、近い将来介護施設へ入所することが決まっており、当該建物に長期的に居住し続ける見込みがないケース。
- 所有者の不利益が極めて大きい場合: 建物の老朽化が著しく、建物を所有することになる他の相続人が多額の修繕費や維持費(固定資産税等)を負担しなければならず、かつ第三者への売却や活用も著しく制限されるなど、所有者側の不利益が過大であると評価されるケース。
(3)複雑な財産評価と専門家サポートの重要性
また、遺産分割実務において最大のハードルとなるのが「配偶者居住権の財産評価」です。配偶者が遺産分割において配偶者居住権を取得する場合には、その財産的価値に相当する金額を取得することになるため、他の遺産からの取り分が減ることになります。
この評価については、「簡易な評価方法」が実務上よく用いられますが、建物の法定耐用年数、経過年数、存続年数(終身の場合は簡易生命表に基づく平均余命)、法定利率に応じたライプニッツ係数などを複雑な計算式に当てはめて算出する必要があります。専門家でない方がこれらを正確に算出することは困難であり、評価額をめぐって当事者間で認識が異なり、調停や審判が長期化する最大の原因となります。
4 おわりに

配偶者居住権は、残された配偶者の生活を守るための強力な制度となる一方で、法律上の要件の判断や極めて複雑な財産評価、さらには審判への移行リスクなど、専門的な知識が不可欠な領域です。遺産分割の場で配偶者居住権をめぐるトラブルが生じた場合、当事者同士の話し合いだけで円満に解決することは非常に困難と言わざるを得ません。
当事務所では、これまで多数の相続紛争、特に遺産分割や遺留分侵害額請求などの解決に注力してまいりました。
● 「長年住んだ自宅に住み続けたいが、他の相続人が家を売却して代金を分けるよう求めてきている」
● 「配偶者から居住権を主張されているが、建物の評価額が高すぎる(安すぎる)と納得がいかない」
● 「遺言書に配偶者居住権に関する記載があるが、その有効性や解釈で揉めている」
このようなお悩みを抱えていらっしゃる方は、一人で抱え込まず、ぜひお早めに当事務所にご相談ください。相続トラブルは、時間が経つほど感情的な対立が深まり、解決の糸口が見えなくなる傾向にあります。
当事務所において、法的な観点から精緻な検討を行い、ご相談者様にとって最も有利かつ現実的な解決策をご提案いたします。協議の代理交渉から、家庭裁判所での調停や審判を見据えた強力なサポートまで、一貫して対応いたします。
まずは初回のご相談にて、現在のご状況をお聞かせください。

