目次
1 はじめに
2 トレント(BitTorrent)がなぜ著作権侵害になるのか
7 よくあるご質問
8 まとめ
1 はじめに

「漫画、アニメ、アダルトビデオ(AV)などを無料でダウンロードして楽しんでいたところ、突然、インターネットプロバイダから発信者情報開示に関する意見照会書が届いた」「見覚えのない作品名が書かれた損害賠償請求の書面が弁護士から届いた」というご相談が、近年、大幅に増えています。
総務省が令和7年11月に公表した資料によると、令和6年にアクセスプロバイダ(インターネット接続事業者)に対してなされた発信者情報開示請求は、訴訟、仮処分、開示命令の申立て、任意請求を合わせて154,484件でした。そのうち約95.6%にあたる147,746件が、特定のP2Pファイル共有ソフトを用いたアダルト動画の著作権侵害に関する事案だったとされています。件数の大半が任意の開示請求であることや、プロバイダ各社の対応が追いつかなくなっていることも指摘されており、総務省やプロバイダの業界団体、国民生活センターなどが、繰り返し注意喚起を行っています。
ご相談される方の大半は、ご自身では「ダウンロードをしただけ」で、アップロードをした意識がありません。しかし、トレント(BitTorrent)などのP2P方式のファイル共有ソフトは、ファイルをダウンロードしている最中から、すでに受け取ったデータの一部を他の利用者に送信する仕組みになっています。そのため、利用者に自覚がなくても、アップロード(公衆送信)をしたものとして責任を問われることになります。
意見照会書は、突然届くうえ、誰にも相談しにくい内容であるため、多くの方が不安のなかで判断を迫られます。この記事では、意見照会書が届いた場合の基本的な知識と対応の考え方を、弁護士が解説します。
2 トレント(BitTorrent)がなぜ著作権侵害になるのか

BitTorrent自体は違法な技術ではなく、正規のソフトウェア配布などにも使われています。しかし、他人の著作物を権利者に無断でやり取りすれば、著作権侵害になります。
トレントでは、ファイルが細かく分割されており、利用者同士が持っている断片を送り合うことで、ファイル全体を入手します。つまり、ダウンロードを始めると同時に、自分の端末が他の利用者へデータを送る側にもなります。この状態は、他人の著作物を不特定多数の人が受信できる状態にしているため、著作権者が持つ公衆送信権(送信可能化権)の侵害にあたります(著作権法23条1項)。
なお、次のような点もよく誤解されています。
- パソコンだけでなく、スマートフォンやアプリで利用した場合も同じです。qBittorrentなど、BitTorrentの仕組みに対応したソフトであれば、基本的に同様の問題が生じます。
- ダウンロードが完了した後も、ソフトを起動したままにしていたり、ファイルを共有フォルダに置いたままにしていたりすると、アップロードが続きます。
- 1つの作品だけを意図して入手した場合でも、複数の作品について記録が残っていることがあります。
権利者側は、トレントの利用を検知するシステム(P2PFINDERなど)を使って、ファイルを送信している端末のIPアドレスや日時を記録しています。検知システムのなかには、業界のガイドライン協議会が信頼性を確認して認定しているものもあり、プロバイダが、そうした検知結果をもとに開示の判断をする例もあります。「バレないだろう」という考えは通用しにくい状況です。
3 著作権侵害による法的責任(民事・刑事)
(1)民事責任
著作者や著作権者は、漫画、アニメ、AVなどの作品について独占的な権利を持っています。無断でアップロードすれば、権利者は、損害賠償の請求や、侵害行為の差止めを求めることができます。
損害賠償の金額は、作品の数、侵害の期間や態様、権利者が受けた損害の程度、調査や弁護士にかかった費用などを踏まえて請求されます。事案によって幅があり、理論上は高額になり得ますが、総務省の注意喚起資料でも、数十万円といった和解金を求められる例が紹介されています(和解金が1社につき百万円程度になる事案もあります)。請求額が適正かどうかは、作品数やログの内容を確認しなければ判断できませんので、請求書が届いた場合は、内容を検討せずに支払うことは避けてください。
(2)刑事責任
公衆送信権の侵害は、10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性がある犯罪です(著作権法119条1項)。なお、令和7年6月の刑法改正により、従来の「懲役」は「拘禁刑」に改められています。
この罪は、権利者の告訴がなければ起訴されない親告罪です。そのため、権利者との間で適切に示談を成立させ、告訴をしない、あるいは告訴を取り下げるといった内容を合意できれば、刑事責任を回避できる場合があります。もっとも、すでに捜査機関が動いている場合には、自宅の捜索やパソコンなどの押収が行われることもあり、逮捕や起訴、さらには勤務先への影響など、日常生活に深刻な影響が生じるおそれがあります。
また、違法にアップロードされたものと知りながら有償の著作物などをダウンロードする行為も、著作権法上、処罰の対象となる場合があります。
(3)早期対応の重要性
このように、トレントを通じたアップロードは、民事・刑事の両面で大きな責任を伴います。もっとも、意見照会書が届いたことは、すぐに逮捕されることを意味するものではありません。大切なのは、届いた書面を放置せず、できるだけ早く、状況に応じた適切な対応をとることです。
4 プロバイダからの意見照会書とは
(1)意見照会書が届くまでの流れ
- 著作権者が、検知システムなどを使って、違法にアップロードしているIPアドレスと日時を記録する。
- 著作権者が、そのIPアドレスを管理するインターネットプロバイダに対し、契約者の氏名や住所などの開示(発信者情報開示)を請求する。
- プロバイダは、開示してよいかどうかを契約者に確認するため、意見照会書を送る。
- プロバイダが開示に応じれば(または裁判所が開示を命じれば)、著作権者に契約者の氏名・住所などが開示される。
- 著作権者(またはその代理人弁護士)から、損害賠償請求書や示談の申し入れが届く。
(2)意見照会書の特徴
- 回答期限は、1週間から2週間程度と短く設定されることが多いです。業界のガイドラインでは、意見照会から2週間程度たっても回答がない場合、契約者は特段の主張をしないものとして扱われるとされています。
- 意見照会書には、請求者(権利者)の名称、侵害されたとされる作品名、IPアドレス、侵害の日時などが記載されています。
- 総務省は、意見照会の方法を郵送に限る必要はなく、契約時に申告されたメールアドレス宛のメールでもよいとの考えを示しています。利用者側の事情(メールアドレスの誤り、迷惑メールフォルダへの振り分けなど)で届かなかった場合の不利益は、利用者が負うことになるとされています。プロバイダからのメールは、必ず確認してください。
- 契約者あてに届きますので、ご自身以外の同居のご家族などが利用していた場合も、契約者の方に届きます。
(3)権利者が開示を求める方法も多様化しています
発信者情報の開示は、プロバイダに対する任意の開示請求のほか、裁判所に対する開示命令の申立てや訴訟などによっても求められます。プロバイダが任意の開示に応じない場合でも、裁判所が開示を命じた例が出ています。たとえば、音楽の分野でも、BitTorrentを利用した違法アップロードについて、令和7年11月と令和8年3月に、東京地方裁判所が、プロバイダに対し発信者情報の開示を命じる判決を言い渡したと、日本レコード協会が発表しています。「プロバイダが断れば開示されない」とは考えないほうがよいでしょう。
(なお、発信者情報開示の制度を定める法律は、従来「プロバイダ責任制限法」と呼ばれていましたが、令和7年4月に「情報流通プラットフォーム対処法」に名称が改められています。)
5 意見照会書が届いたときの対応
(1)まず確認すること
- 書面(メール)の差出人は、本当にご契約のプロバイダか。
- 回答期限はいつか。
- 請求者や作品名、IPアドレス、日時はどうなっているか。
- ご自身に、トレントを利用した心当たりがあるか。
- 同居のご家族や、Wi-Fiを使える第三者に、利用した可能性のある人がいないか。
AV作品名などが書かれているため、架空請求や詐欺だと思って放置してしまう方もいらっしゃいますが、プロバイダを名乗る書面が本物であるケースは少なくありません。不審に思う場合は、書面に書かれた連絡先ではなく、プロバイダの公式サイトに記載された窓口に確認してください。
(2)回答の選択肢と、それぞれのリスク
意見照会には、「同意(承諾)」「不同意(拒否)」「無視・放置」という選択肢があります。
【同意】 プロバイダは、契約者の氏名や住所などを権利者に開示します。心当たりがある場合には、開示を前提に、早期に示談交渉に進む方針が考えられます。
【不同意】 ただちに開示が止まるわけではありません。権利者が開示命令の申立てや訴訟を行い、裁判所が認めれば、強制的に開示されます。心当たりがない場合や、開示の要件を満たさないと考えられる場合には、法的な根拠を示して不同意とすることも考えられますが、書き方によっては、かえって不利な事情を残してしまうこともあります。
【無視・放置】 期限を過ぎれば、意見がなかったものとして扱われ、開示される可能性が高まります。インターネット上には「無視すればよい」という書き込みもありますが、開示後に請求が来るだけでなく、裁判になった場合には、訴訟にかかった弁護士費用などの賠償を求められるケースもあります。また、告訴されれば、有罪となり前科が付くおそれもあります。放置は、最も避けるべき対応です。
(3)避けるべき対応
- 無視・放置すること。
- 内容を理解しないまま、回答書や示談書に署名・返送すること。 回答の書き方や示談書の文言によっては、ご自身に不利な事実が証拠として残ったり、刑事責任が解決されないまま示談が成立したりするおそれがあります。
- 権利者や代理人弁護士に、ご自身で直接連絡し、事情を説明すること。
- トレントの利用を続けること。 ただちに利用を停止し、共有している状態を解消してください。ただし、パソコンの初期化やデータの一括削除などは、捜査や交渉への影響が生じ得るため、自己判断で行わず、弁護士にご相談ください。
(4)心当たりがある場合・ない場合の基本方針
心当たりがある場合
トレントを利用した事実を認めたうえで、示談金(1社あたり百万円程度になる事案が多いです。)を準備し、早期に示談を目指すことが、合理的な解決であると考えます。示談では、金額のほか、今後侵害行為をしない旨の誓約、告訴をしない旨(刑事責任の取扱い)などを、書面(和解書)で整理することが大切です。「早く終わらせたい」という気持ちで、請求された金額をそのまま支払うことが、必ずしも最善とは限りません。
心当たりがない場合
同居のご家族などの利用の有無を確認したうえで、著作権侵害の事実や開示の要件を争うことも考えられます。その場合は、発信者情報の開示や損害賠償請求を思いとどまらせるため、法的な根拠に基づいた回答をする必要があります。
6 弁護士に依頼するメリットと費用

意見照会書は、回答期限が短いうえ、回答の仕方によってその後の展開が変わります。弁護士にご依頼いただくことで、次のようなメリットがあります。
- 意見照会書への回答内容を、事案に応じて検討できます。
- 開示後の権利者との交渉や示談書の作成を、すべて弁護士が窓口となって行います。ご本人が相手方と直接やり取りする必要はありません。
- 請求額が適正かどうかを検討し、示談金額や示談条件(誓約内容、刑事責任の取扱いなど)を交渉します。
- ご家族や勤務先に知られるリスクを、できる限り抑えた対応を目指します。
(ただし、プロバイダからの書面は契約者宛に届きますので、ご家族が開封する可能性までなくすことはできません。早めに弁護士にご相談いただくほうが、対策をとりやすくなります。)
当事務所では、漫画、アニメ、AVなどの著作物をトレント(BitTorrent)でアップロードしたことに関するご相談について、個人のお客様で、アップロードを認めており、発信者情報開示に関する意見照会書が届いた場合には、初回相談を無料で承っております。
ご依頼いただく場合の弁護士費用は、次のとおりです(個人のお客様で、アップロードを認めており、発信者情報開示に関する意見照会書が届いた場合)。
- 着手金:22万円
- 実費:1万円
- 解決報酬金:22万円
※事案の内容によっては、上記と異なる費用となる場合があります。その場合は、事前に十分にご説明します。
7 よくあるご質問

Q. 意見照会書が届いたら、すぐに逮捕されますか。
A. 意見照会書は、警察ではなくプロバイダから届く書面で、届いたことのみをもって、ただちに逮捕されることはありません。もっとも、意見照会書への回答や、その後の示談の状況によっては、刑事事件に発展するおそれがあります。放置せず、早めにご相談ください。
Q. 回答期限に間に合いません。
A. まず、プロバイダに連絡して、期限の延長が可能か確認する方法があります。弁護士にご依頼いただければ、プロバイダとの調整も含めて対応します。期限が過ぎてしまった場合でも、その後の対応は可能ですので、あきらめずにご相談ください。
Q. ダウンロードしただけで、アップロードしたつもりはありません。それでも責任を負いますか。
A. トレントなどのP2Pソフトは、ダウンロードと同時にアップロードが行われる仕組みですので、利用者に自覚がなくても、責任を問われる可能性があります。
Q. 示談金はいくらくらいですか。
A. 作品の数、侵害の期間、権利者の方針などによって異なり、一概にはいえません(1社あたり百万円程度になる事案が多いです)。請求額が妥当かどうかは、書面の内容を確認しないと判断できませんので、支払う前にご相談ください。
Q. 家族や会社に知られずに解決できますか。
A. 弁護士が窓口となり、相手方とのやり取りをすべて行うことで、知られるリスクを抑えることは可能です。ただし、プロバイダからの書面や、相手方からの通知は、契約者宛に届きます。届いたあとの対応について、お早めにご相談ください。
Q. 同居の家族が使っていた場合はどうなりますか。
A. 契約者本人が利用していなくても、契約者宛に書面が届きます。実際の利用者が誰であるかを確認し、その事情を前提に、回答や交渉の方針を検討する必要があります。
8 まとめ
トレント(BitTorrent)を利用した著作権侵害をめぐる発信者情報開示請求は、近年、きわめて多くなっています。権利者側は検知システムを整え、裁判所による開示判決も出ており、「無視すれば何も起きない」という状況ではありません。
意見照会書や、弁護士からの損害賠償請求の書面が届いた場合には、民事責任・刑事責任の両面から、早期に対応することをお勧めします。心当たりがある場合には、示談を見据えた回答を、心当たりがまったくない場合には、法的な根拠に基づいた回答をすべきです。
適切な回答を、期限内に行うために、法的紛争解決の専門家である弁護士にご相談ください。当事務所では、個人のお客様で、アップロードを認めており、発信者情報開示に関する意見照会書が届いた場合、初回相談は無料です。回答期限が迫っている場合は、お早めにお問い合わせください。






