目次
1 はじめに
4 おわりに
1 はじめに

「長男に自宅と預金を相続させたい」
「事業を継いでくれる子どもに会社の株式を集中させたい」
「長年、自分の面倒を見てくれた子どもに、できるだけ多くの財産を残したい」
相続について相談を受けていると、このような希望を持っている方は少なくありません。
そのような場合、まず考えられるのが遺言書の作成です。
遺言書を作成しておけば、誰にどの財産を相続させるのかについて、亡くなった方の意思を明確に残すことができます。
しかし、遺言書を作れば、それですべて解決するとは限りません。
特に注意が必要なのが、「遺留分」です。
例えば、長男に自宅や預金などの大部分を相続させる内容の遺言を作ったとしても、他の相続人に遺留分が認められている場合、その相続人から遺留分侵害額を請求される可能性があります。
その結果、
- 遺言書はあるのに相続人同士の争いになる
- 事業を継ぐ子どもが多額の金銭を準備しなければならなくなる
- 自宅や事業用資産を処分して支払い資金を作らなければならなくなる
といった問題が生じることがあります。
そのため、遺言書を作成するときには、「誰に何を相続させるか」だけでなく、「遺留分を侵害する可能性がないか」「もし遺留分侵害額請求がされた場合に、どのように対応するか」まで考えておくことが重要です。
今回は、遺言による遺留分対策について、具体的な方法を解説します。
2 遺言書を作るだけでは、遺留分対策として十分とはいえない

(1)遺留分侵害額請求を意識した遺言を作る
遺留分対策を考えるうえで、まず重要なのは、遺留分侵害額請求がされることを前提として遺言内容を検討することです。
例えば、父親が亡くなり、相続人が長男と次男の2人だったとします。
父親は事業を経営しており、長男が長年その事業を手伝っていました。
父親としては、
「事業を継いでくれる長男に会社の株式や事業用資産を集中させたい」
と考えるかもしれません。
そこで、
「全財産を長男に相続させる」
という遺言を作ったとします。
しかし、次男に遺留分がある場合、遺言書によって次男の遺留分までなくなるわけではありません。
次男から遺留分侵害額請求を受ければ、長男は原則として金銭による支払いを求められることになります。
したがって、
「長男に財産を集中させる遺言を書く」
だけではなく、
「長男が遺留分侵害額請求をされた場合、どのように支払うのか」
まで考えておくことが重要です。
(2)遺留分侵害額の支払方法まで検討する
遺留分をめぐるトラブルでは、金額そのものだけでなく、「どうやって支払うのか」が大きな問題になることがあります。
例えば、相続財産の大部分が自宅や事業用不動産、会社株式など、すぐに現金化することが難しい財産だったとします。
この場合、遺留分侵害額が500万円だったとしても、相続した側が500万円の現金をすぐに用意できるとは限りません。
そこで、遺言書を作成する段階で、
- どの財産を誰に相続させるのか
- 支払いに充てる預貯金をどの程度確保しておくのか
- 一括払いが難しい場合にどのような支払方法が考えられるのか
などを検討しておきます。
もちろん、遺言者が一方的に定めれば、遺留分権利者の権利を自由に制限できるというものではありません。
そのため、実際の遺言文言については、相続人の構成や財産内容を踏まえて慎重に検討する必要があります。
3 事業承継では、遺留分対策を早めに検討する

遺留分対策が特に重要になるのが、会社を経営している方の相続です。
例えば、父親が会社の株式を100%保有し、長男が後継者として会社経営を行っているとします。
父親としては、
「会社の株式はすべて長男に相続させたい」
と考えるでしょう。
これは事業承継の観点からは合理的な場合があります。
しかし、相続人に長男以外の子どもがいる場合、その子どもから遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
会社の株式がほとんど唯一の財産である場合には、後継者である長男が遺留分に相当する金銭を準備できるかどうかが問題となります。
そのため、事業承継と遺留分対策は別々に考えるのではなく、一体として考える必要があります。
(1)会社株式を後継者に集中させる場合
会社を特定の子どもに継がせる場合、基本的には、
「会社の株式を後継者に集中させる」
という方向で遺言を検討することになります。
しかし、その場合には、他の相続人の遺留分をどのように考えるかが問題になります。
そこで、
- 預貯金などの金融資産を一定程度残しておく
- 生命保険なども含めて相続発生後の資金を検討する
- 株式以外の財産を他の相続人に取得させる
- 遺留分侵害額が発生した場合の支払原資を準備する
など、複数の方法を組み合わせて検討することが重要です。

(2)種類株式を活用する方法
事業承継における遺留分対策の一つとして、種類株式の活用も考えられます。
例えば、会社の株式について、議決権のある株式と議決権を制限した株式を設け、後継者には議決権のある株式を、それ以外の相続人には議決権のない株式を取得させるという方法です。
イメージとしては、
相続前
現経営者
↓
普通株式を保有
↓
株式の種類を変更
現経営者
↓
議決権のある株式+無議決権株式
↓
相続
後継者
→ 議決権のある株式
その他の相続人
→ 無議決権株式
という形です。
このような方法を利用すれば、後継者以外の相続人にも株式を取得させながら、会社の議決権を後継者に集中させることが検討できます。
ただし、これは単純な「遺留分対策」と考えるべきではありません。
議決権のない株式を取得することについて他の相続人が納得できなければ、かえって紛争の原因になる可能性があります。
また、非上場会社の株式については、その評価額をどのように考えるかという別の問題もあります。
したがって、種類株式を利用する場合には、会社法上の設計だけでなく、相続・遺留分・株式評価などを含めて総合的に検討することが必要です。

(3)「遺言書を作って終わり」にしない
遺留分対策では、遺言書の内容だけを考えるのではなく、相続が発生した後に実際に何が起こるのかをシミュレーションすることが重要です。
例えば、
「長男に自宅を相続させる」
という遺言を作る場合でも、
「次男から遺留分侵害額請求をされたら、長男はそのお金をどうやって支払うのか?」
というところまで考えます。
また、
「長男に会社の株式をすべて相続させる」
という場合には、
「遺留分侵害額が発生した場合、長男が会社を維持しながら支払えるのか?」
という点まで検討する必要があります。
このように考えていくと、遺留分対策は、単に遺言書の文章を作るだけの問題ではないことが分かります。
財産の内容、相続人、財産評価、遺言内容、支払資金、事業承継などを一つの問題として考えることが重要です。
4 おわりに

「自分が亡くなった後、家族には争ってほしくない」
これは、遺言書を作成しようと考える多くの方が持っている願いです。
しかし、家族が争わないためには、単に「長男に全部相続させる」「自宅は妻に相続させる」と遺言書に書けばよいとは限りません。
遺留分という制度があるためです。
特に、
- 特定の相続人に多くの財産を相続させたい
- 自宅を特定の子どもに残したい
- 会社を後継者に継がせたい
- 会社株式を後継者に集中させたい
- 相続人同士の関係があまり良くない
- 財産の大部分が不動産や非上場会社の株式である
という方は、遺言書を作成する段階から遺留分について検討しておくことをおすすめします。
遺留分侵害額請求が発生してから対応するのではなく、相続が発生する前に「どのような遺言を作れば、相続後のトラブルをできるだけ減らせるか」を考えておくことが重要です。
「このような遺言を作ったら、子どもから遺留分を請求されるのではないか」
「会社を長男に継がせたいが、他の子どもの遺留分が心配」
「自宅や会社株式をどう分ければよいのか分からない」
といった場合には、実際に相続が発生する前に、ぜひ一度、ながまち駅前法律事務所にご相談ください。
遺言書は、「誰に財産を渡すか」だけでなく、「その後、家族がどうなるか」まで考えて作ることが大切です。

